近現代史研究家で一燈園資料館「香倉院」勤務、
里見日本文化学研究所客員研究員の宮田昌明氏が
京都大学に提出した学位論文
『英米世界秩序と東アジアにおける日本ー中国をめぐる協調と相克』
(錦正社)。
最近の広告にはこんな紹介が。
「大東亜戦争肯定論の新拠点。
英米中ソはじめ世界各国を緻密に分析、
20世紀前半の世界情勢を描写する新たな歴史観を提起する!」と。
以前から気になっていた。
でも未読。
ところが、最近刊行された筒井清忠氏編
『昭和史講義ー最新研究で見る戦争への道』を読んで驚いた。
同講義は、第1講から15講まで、テーマごとに専門家が分担執筆し、
それぞれ担当者が推薦する参考文献が挙げられている。
その第1、3、7講で、
重複して宮田氏の著書が参考文献に取り上げられ、
一様に極めて高く評価されているのだ。
「19世紀末から日中戦争開始直前までの東アジア国際関係史を、
関係各国の内情にまで踏み込んで分析した極めて緻密な実証研究。
厳密な史料批判に基づいているが、
ややオーバーと思われる表現もある」
(第1講。帝京大学専任講師、渡邉公太氏)
「近代における日本の東アジア戦略を国際的視点から解明した大作」
(第3講。敬愛大学教授・放送大学客員教授、家近亮子氏)
「昭和の陸軍史研究としてよいものがない中、例外的に優れた研究。
実証的根拠の乏しい書物が横行している中、
それらを的確に批判している。
今日まず読まれるべき書である。
ただ、批判の言辞の中にはやや行き過ぎが感じられる
箇所がないではない」
(第7講。帝京大学教授・同文学部長・東京財団上席研究員、
筒井清忠氏)
ーといった具合。
本書中、こんな破格の扱いは、他に例がない。
宮田氏の本は900ページ近い大著ながら、やはり読むべきか。
「緻密な実証研究」とか「厳密な史料批判」「例外的に優れた研究」
などと評価される一方で、
「ややオーバーと思われる表現もある」とか、
「やや行き過ぎが感じられる箇所がないではない」
とたしなめられているのも、かえって好感が持てる。